北インドと日本をつなぐ食を通した栄養改善プロジェクト

公益財団法人味の素ファンデーションのAINの助成を受けて「北インドと日本をつなぐ食を通した栄養改善プロジェクト」を2019年4月から2022年3月まで実施しました。

農村女性の小規模生産者グループ(SPG)によるモリンガの栽培・生葉の出荷、NGO アーシャ ビカス セワ サミティ(AVSS)で働く農村女性によるモリンガ粉末の加工・販売を通じて、農村女性の収入向上と組織強化、モリンガの摂取による住民の栄養向上、特に幼児の栄養改善を目的として活動を実施しました。

モリンガは、北インド原産のワサビノキ科に属する植物であり、亜熱帯・熱帯地方に広く自生しています。葉・実・茎・根など全てに利用価値があり、ビタミン、ミネラル、食物繊維、必須アミノ酸、GABA・ポリフェノール・β-カロテンなど90種類を超える栄養素、機能性成分が豊富に含まれ、その高い栄養価から「奇跡の木」「生命の木」「緑のミルク」などと呼ばれています。伝統医学のアーユルヴェーダでは3000年も前から生薬として使用されてきました。 また、WHO(世界保健機関)では貧困地域で栄養補給にモリンガ栽培を推奨しています。

 

農村で活動する農村女性の保健ボランティアの中から、熱心に活動する人をシニア保健ボランティア(SVHV)として選抜し、モリンガ栽培と小規模生産者グループ(SPG)の組織化、食と健康、モリンガの栄養価と摂取による栄養不良の改善、幼児の身体測定の方法を指導しました。

シニア保健ボランティア(SVHV)は、本会スタッフと協働して、モリンガ栽培に適した農地を探し、その農地のある村で、農村女性を集めてセミナーを開催しました。その中で、小規模生産者グループ(SPG)を組織して、協働でモリンガを栽培し、収穫した生葉をAVSSへ出荷することで収入を得ることを奨励しました。さらに、モリンガの栄養価、モリンガを利用した料理を紹介し、モリンガを家庭内で摂取して家族、特に、幼児の栄養不良を改善することを啓発しました。

 

2019年度、2村で小規模生産グループ(SPG) 5グループが組織され、SPGの菜園でモリンガ栽培を開始しました。マキノスクールの農場で栽培するモリンガと合わせて、生葉 290キログラムを収穫しました。2020年度、コロナ感染拡大によりロックダウン令が施行され、10月まで農村活動は困難になり、シニア農村保健ボランティア(SVHV)によるSPGへの巡回指導が実施できず、また、野生動物による獣害も続出したことで、村のモリンガ生葉の収穫は少量でした。一方、マキノスクールの農場では生葉 800キログラムを収穫しました。

2021年度、小規模生産グループ(SPG)10グループが組織され、モリンガ栽培を開始しました。しかし、生葉を出荷したのは4グループのみでした。他のSPGでは、蝗害(サバクトビバッタ)や野生動物の獣害など、大きな被害を被り、モリンガの木を放棄または伐採してしまいました。その中で、全てのSPGにおいて、家の周りに植えたモリンガの生葉は自家消費されていました。一方、マキノスクールの農場では生葉 830キログラムを収穫しました。また、モリンガとモリンガの畝の間に緑黄色野菜を栽培する間作を実施し、多種類の野菜、穀類の収穫より高い収入を得られることを証明することができました。

 

AVSSでは、専門家の指導の下で、モリンガの生葉を洗浄・乾燥して粉末にする製造プロセスの効率と品質を改善する活動を続けました。また、日本製の一般生菌、大腸菌群、大腸菌の検査キットを導入し、製造プロセス内で細菌検査を開始しました。さらに、製造したモリンガ粉末は、毎回、日本の検査機関に依頼して一般生菌、大腸菌群、大腸菌の食品細菌検査を行い、基準値以下であることを確認しました。2019年度はモリンガ粉末 28キログラム、2020年度は80キログラム、2021年度は83キログラムを製造しました。

 

2019年度、シニア保健ボランティア(SVHV)は、SPGを組織した2村の家庭を訪問し、幼児の身体測定を実施しました。インドの発育阻害率は30.2%、UP州の多くの地域で50%を超えています。対象村の幼児の身体測定の結果、2村の平均は55.4%でした。2020年度は、前回実施した2村に、新たに10村を加えて、幼児168名の身体測定を実施しました。

2021年度、身体測定の結果を元に、発育阻害(低身長)の2歳から5歳未満の幼児48名を抽出し、母親にモリンガパウダーを配布して摂取方法を指導して、フォローアップを継続しました。その結果、女児30名、男児18名は、おおむね身長は伸びていましたが、女児4名、男児2名は伸びが緩慢なため、引き続き見守りを継続することにしました。

一部の母親や家族がモリンガへの間違った情報や迷信から、モリンガパウダーを幼児に食べさせたくない、身体測定もしないとドロップアウトしましたが、最終サーベイ前に、再び、モリンガパウダーを食べさせたい、身体測定にも協力したいという母親が増えました。中には、病気がちな祖父母にもモリンガパウダーを与えたいと希望する者もいました。これは、シニア保健ボランティア(SVHV)によるモリンガの啓発活動の賜物です。

 

モリンガの原産地であるインド国内では、安価なインド産のモリンガ粉末やその加工品が出回っています。AVSSでは、アラハバード有機農業組合(AOAC)の販売網を利用してセレクトショップや日本人向け土産物店での販売、地元やデリーのイベント等での出店販売、ホームページでの通信販売を行っています。

日本では、セレクトショップや自然食品店での販売、イベント等での出店販売、ホームページでの通信販売を行っています。本会は、インドから輸入したモリンガ粉末を、一般顧客向けに30グラムと100グラム、業務用の500グラムに分封して販売しています。マキノスクールのインド国家有機食品規格の認証を受けた有機農場で栽培したモリンガの生葉のみを使用したモリンガ粉末は特選モリンガパウダーと称して販売しています。また、ヒマラヤ岩塩とモリンガ粉末をブレンドしたモリンガ塩も販売しています。売上は、年々50%超で増加しています。

 

シニア農村保健ボランティア(SVHV)は、実践を重ねて経験を積み、モリンガ栽培・加工、モリンガなどの栄養豊富な食物の摂取の重要性について自信をもって農村住民に伝えることができるようになり、自立的に普及活動、農村調査、啓発活動を行っています。小規模生産グループ(SPG)を活用した活動は、AOACとの協働で継続していきます。